ある朝、僕は遠い遠い大学(2時間半もかかる)へ向かうため、駅への歩道橋を昇っていました。
階段の半分くらい来た所で、何気に欄干に手を置いた。
すると何かがモゾモゾっと手の中でうごめいたんです。
僕は泣くほど虫が嫌い(恐怖症といってもいい)なので、瞬間、サッと血の気が引きました。
うえあぁあ、むしぃぃ。
恐怖に顔を引きつらせながら、僕はゆっくりとそこに広がっているであろう情景を思い浮かべて、覚悟しながら手の平を返してみました。
でも何もいないんですよ。
気のせいだったのか?とも思ったんですが、余りにも感触がリアルだったので、それはないでしょう。
その歩道橋はすぐ上に電車が走っているので、暗かったのでその虫が逃げ去ったのを見逃してしまったのでしょうね、きっと。
でも、その後、数時間は手の中で何かがへばりついているように、相変わらず何かうごめいてるんですよねぇ。何度手の平みても何もいないのに。
でも妙にリアルだったんですよ、その感触が。
何か、潰れた虫がもがいているみたいな。
でも暑かったですぅ。
熱帯夜とまではいかないまでも暑さに弱い僕には地獄のような夜です。
明日は早く起きないといけない。でも暑くてとてもじゃないけど寝らんない。
かといってクーラーつけに行くのも面倒だし、身体にも悪いし。
さんざん迷って、結局、それの涼しい誘惑に負けてしまってつけることにしました。
「よいしょっと」という掛け声とともに立ち上がろうとすると、体重を支えるために脇に置いた右手に何かがさわりました。
何か細い紐のようなもので、やけにこそばゆかったのを覚えています。
ナニ?とも思ったんですが起きたてで、まだ目も慣れていない。
それよりも今はこの炎熱の如何ともしがたい状況を何とかせねばと、とりあえずクーラーをつけることにしました。
リモコンを探し当て、スイッチを押して電源を入れ、しばらくすると心地の良い冷気が僕を包んでくれました。
「ふぅ〜、まったくクーラーさまさまやねぇ〜」とつぶやきながら、ふとさっきの手にさわった紐の事を思い出しました。
あんな紐この部屋にあったかなぁ?
まだ慣れない目で、さっき右手を置いた辺りを探ってみました。
するとバサバサッと大量の紐が手に触れたんです。
なんじゃい?
暗い中、僕は手の感触を頼りにその大量の紐の先端から順に辿ってみました。
すると、ボールのようなものがありました。
こんなもの置いてあったかなぁ?と、いぶかりながらもそのボールを撫で回してみました。
でも、ボールにしては妙なんですよ。
妙な凹凸はあるし、真ん中へんが大きく突起してるし。
僕は何となく、それが何なのか分かり、固まってしまいました。
しばらく、それへの恐怖とクーラーによる冷気で寒気を感じてたけど、このまま固まっていても埒があかないので、思い切って手を放して電気をつけてみました。
何もなかったんですよ。何もいないし。
夢にしては妙に生々しくリアルな感触が残っていました。
ホントに寝苦しい夜でしたよ。
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